監査部の荒木です。実は前回の「民主主義とは」では字数の関係上、本当に言いたかった事が言えていないので(家庭内での不平等な扱いのことを言いたかったわけでは決してないです!)、今回もまた民主主義について思うことを熱く語りたいと思います。
オルテガ・イ・ガセットというスペインの哲学者(評論家の西部邁が影響を受け、しばしばオルテガの発言を引用)は、民主主義の本義を「敵と共生する、反対者とともに統治すること」と言っています。また、内田樹・神戸女学院大学名誉教授は、民主主義のルールは「少数意見の尊重」と言います。「反対者とともに」統治することや「少数意見」を尊重することは、非効率的で、現代社会のスピード感に対応していけるとは到底思えません。民主主義はもう時代遅れの制度ということなのでしょうか。
この疑問について内田樹氏は、「民主主義は非効率的なものに見えるが、国難的危機のときには強い復元力を持つ制度である」と言います。そして、「できるだけ多様な立場の人を合意形成の当事者に組み込むことで集団の復元力を担保する仕組みである」と。つまり、組織運営において死活問題となるような失敗をした場合には、できるだけ多くの人が当事者意識を持ってその失敗に責任を感じ、挽回への協力体制を形成するということが必要となり、それを可能にするのが、「できるだけ多様な立場の人を合意形成の当事者に組み込んでいる」制度(本来の民主主義)である、ということです。逆に、「多様な立場の人の合意が無いまま多数決で決めると、決めたことが失敗した場合、排除された側はその失敗を嘆くどころか『ざまぁみろ』と思うようになる。組織全体で考えた場合、この様な組織が繁栄していくはずがない」と、内田樹氏は言います。
要するに、民主主義は、目先の効率性や生産性を考えた場合には無駄なように見える制度だけれど、存続・継続を考えた場合には有効な制度である、ということです。
企業等の研修で使われるものにコンセンサスゲームというものがあります。コンセンサスとは合意形成のことで、これは、チームで話し合いながら全員で1つの結論を導き出すことを目的としたゲームです。このゲームには、「宇宙」「砂漠」「無人島」など様々なシチュエーションがありますが、例えば「宇宙」では、こういう内容となります。
宇宙船が故障により、月に不時着した。本来は、陽の当たっている月面上に母船が迎えに来ることになっているが、それは不時着地点からは300km離れた位置になる。不時着した時に宇宙船は完全に壊れ、中の設備も使い物にならない。生き残るためには何とかして母船が迎えに来ることになっている場所(300km先)まで辿り着かなくてはならないが、使えそうなものは15品のみしかない。 この15品の品物リストから、母船に辿り着くために必要だと思う物を1~15位まで順位付けする。まずは相談せず各自が順位付けを行い、その後、グループで相談して順位付けを行う。この時に意見がまとまらないとしても、多数決で決めることは許されておらず、必ず全員で話し合って決めなければいけない。 |
このコンセンサスゲーム「宇宙」には、NASAの模範解答があり、得点を付けることができるのですが、頭脳的に優れた誰か一人が考え、決断するよりも、グループで考えた方が、相対的に得点が高くなる(模範解答に近くなる)ようです。
つまりは、優れた頭脳や知識、経験等を有する者が方針を考え、決断を下す方が効率的に思えますが、たとえ時間がかかったとしてもできるだけ皆の意見に耳を傾け、その意見を尊重した上で決断をする方が、グループ内の結束力が高まり、結局は生き残れる確率が高くなるということです。
「民主主義の意義」や、「コンセンサスゲーム」を取り上げることで何が言いたいかと言いますと、会社経営においても同じことが言えるのではということです。株式会社というものは、本来、非民主的な組織です。株主から経営を任された役員が経営を担い、利益を出すことを目指して様々な経営判断を行っていきます。社員はその指示に従って動きますが、経営判断に同意する人間は重用され、反対する人間は排除されるという性質を有します。
「株式会社」としてのやり方で業績を伸ばしてくることができた会社であっても、ますます小さくなるパイを取り合い、過当競争が激化していく社会においては、今までと同じやり方をしていては行き詰る時が来るかもしれません。そこで、利益を追求するための効率性や生産性を後回しにし、非効率ではあるけれど、「民主的に」会社を運営してみるという事も会社存続を考えた場合はアリかもしれないなぁと思ったりします。