M-Times 2022.12

昔の光

 総務部の石田です。先日11月8日は皆既月食でしたね。惑星食と被るのは442年ぶりだとかで、久しぶりに夜空を見上げられた方も多いのでは。ちなみに幼い頃私は「怪奇」月食と脳内変換してひとり慄いておりました。

 怪奇もとい皆既月食には思い出がありまして、2007年8月28日のことです。その前日から徳島へ旅行し、当日は「ホテル祖谷温泉」へ宿泊しました。祖谷渓は山深く急峻な谷が有名で、特にこのホテルは谷底にある露天風呂までケーブルカーで移動するというユニークな宿です。さらに、山奥ということで、夜空の美しさも自慢であり、月見台と天体望遠鏡が設置されておりました。山奥で満天の星々を眺める楽しみを胸に訪れたのですが、後からハッと気づいたのです…その日は満月。満月の夜は明るすぎて、ろくに星が見えないはず。旅行企画係だった私は、友達へ身悶えんばかりに詫びたのですが…なんとその8月28日が奇しくも皆既月食だったんです。ほんと偶然。懐かし昭和ドラマ西遊記で、夏目雅子が日蝕の暦を憶えてて奇跡を起こしたオチ(←昔の人だけ、あったあったと同意して下さい)並みの偶然。果たして晴天のその夜、眩かった満月が徐々に欠け始め、不気味な赤い光をまといながら沈黙した時、谷底の清流を空に転写するかのような天の川銀河を、ほんの数時間だけ見せてくれたのでした。そりゃもう心躍る天体ショーでした。

 さらに思い出すのですが、当時ホテルに向かう際タクシーの運転手さんが、祖谷渓に残る「平家の落人伝説」を語ってくれたのでした。昔に聞いたうろ覚えなので、どんなだっけ?と今再びwikipediaなどで確認してみましたが、これが中々信憑性高そうなのです。ちなみに今、私は2種の平家物語をぽつぽつ読み進めておったところです。(新平家物語:吉川英治、現代語訳平家物語:尾崎士郎)

 平家物語は、ご存知の通り、壇ノ浦での平家方々の悲劇が綴られますが、これらの落人伝説は全国各地に残っております。それが事実であるかどうかはさておき、あまりに悲しい平家の最期に対し、当時の人々が、救いのあるエンディングをそれぞれに思い描き、また、そうであってほしいという心優しい祈りと共に、今日まで大切に伝えられてきたのではないでしょうか。その中でも、前述の通り、祖谷渓に伝わる伝説はイチオシの本命馬ですので、興味ある方はぜひここ等のURL先でご覧くださいませ。祖谷に眠る秘密の物語―もうひとつの平家物語―祖谷平家伝説https://nishi-awa.jp/heike/html/story/

 皆既月食の時、月は、地球の大きな影に覆われて、その姿を闇に隠します。その闇から漏れるわずかな光が、赤い偏光となって、我々の目に還ってきます。天体の巡り合わせが見せる、束の間の赤色に、私はぼんやりと闇に浮かぶ霊魂のような不気味さを感じます。そういえば同様に幼少期、何故か怪奇な印象を持っていた唱歌「荒城の月」。美しくも陰惨なまでに悲しげな旋律のせいでしょうか。春高楼の花の宴には、このような月光が、昔の名残を照らすのかもしれませんね…。

 最後に「ホテル祖谷温泉」へ話を戻しますと、当事務所所長の松田が、このエムタイムズの前身「The Midorikai Times」vol.219にて「大歩危小歩危・親不知子不知」と題した祖谷温泉旅行エッセイを執筆しており、同ホテルに宿泊しております。平成23年(これまた偶然同じ)11月の旅行記です。こちらは過日お配りした松田の著書「私本平成記ポート・スターボードまたは貸方・借方」の下巻135頁にも収録しておりますので、ぜひ読み返されてはいかがでしょうか?(お持ちでない方は、まだ少し在庫ございますので、担当者へお申しつけ下さいませ!)